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File No.10・・・・・冷凍マンモスはなぜ見つかるか?

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“最大級の冷凍マンモス、シベリアで発見!”、“マンモスの子供の完全な冷凍死体発 見!”、“無傷の凍結マンモスをシベリアで発見”、“保存状態の良い冷凍マンモス発掘! DNA抽出に期待”……等々のニュース記事を一度は目にした事があるだろう。シベリアの永久凍 土地帯では、数多くのマンモスの冷凍死体が発見されている。だが、同じ永久凍土地帯で、マンモス以外の動物の冷凍死体が発見されたと言うニュースを聞いた 事があるだろうか? おそらく無いだろう!

実はバイソンや馬などの冷凍死体も見つかっており、発見例が無いと言うわけではないが、 私はこれまで一度もマンモス以外の氷河期の動物の冷凍死体が発見されたと言うニュースを聞いた事が無い。何故だろうか? その理由の一つは、マンモス以外 の動物の冷凍死体が見つかっても、話題性がないため報道されない事にある。逆に考えれば、現代人にとって珍しい動物の冷凍死体は見つかっていないと言うこ とだ。強いて言えば「毛サイ」が数点見つかっているぐらいだろうか。

マンモスといえば、史上最大級の哺乳類の一つである。草食動物のマンモスが繁殖する為に は、当然それを支えるだけの豊かな植生が必要である。それだけ豊かな植生に恵まれた地であれば、マンモスの個体数を遥かに上回る小型の草食動物が生息した はずだ。更に、それを捕食する肉食動物もいなければならない。その中には、マンモス並みに珍しい動物もいたはずだ。たとえばサーベルタイガーや、マンモス を狩っていたとされるヒトなどだ。

こう考えると冷凍マンモスばかりが見つかり、その他の珍しい動物の冷凍死体が見つからな いと言うのは、実に奇妙な事なのだ。いったい、どう言うことなのだろうか? それは、恐らく確率の問題だろう。マンモスの死骸が他の動物と比べ圧倒的に多 い為、凍結した状態で発見される可能性も非常に高いと思われるのだ。

なんとマンモスの象牙は、日本や中国への輸出用に年間約50トンも集積されている。ワシントン条約で取引が禁止された象牙の代わりに、マンモスの牙 は重宝されているのだ。マンモスの象牙の平均的な重さは、約70kgとされるので、50トンは約714頭分のマンモスに等しい。勿論、牙が有る のは、成熟した雄のみである。とんでもない量だとは思わないだろうか?

この謎を考える前に、まずはマンモス自体について簡単に説明しておこう。マンモスとは、 ご存知絶滅した象の仲間で、最終氷期の間、アフリカ、ユーラシアからアメリカ大陸にかけて大繁栄をした動物である。一般に、毛の長い象のイメージで知られ ているが、それは毛長マンモスと言う種類で、毛の短いマンモスも多く存在した。

マンモスと言うと巨大な物の代名詞にもなっているが、実際には毛長マンモスは中型種で、 大きな個体でも現在のアフリカゾウと同じ程度の大きさだった。巨大だったマンモスは、ヨーロッパのステップマンモスや中国で発見された松花江マンモスで、 最大で体高4.5メートル以上、体重も20トン以上と推定されている。

最古のマンモスが、地上に現れたのは約500万年も前のことである。最新の研究では、マンモスは、アフリカ象より、インド象に近縁で 有る事がわかっている。しかし、残念な事にマンモスは、氷河期の終焉と共に絶滅してしまった。

それでは、絶滅の原因は何だろうか? いまだ決定打はないものの幾つかの有力な仮説が存在する。その内最も知られた仮説は、他でもない人類による狩猟説 である。この時期に、シベリアまで進出した人類によりマンモスは狩猟されつくしたと言うのだ。確かに、人類はマンモスを狩猟した。この事は、やじりの刺 さったマンモスの骨が発見されている事で証明されている。

しかし、この説には大きな弱点が有る。膨大な量のマンモスの骨が出土している事実からわ かるように、マンモスは世界的規模で繁栄していたのだ。一方、やっと拡大を始めた人類の人口密度は、マンモスをすべて狩りつくせるほどではなかったはずで ある。特に、広大なシベリア地域の全域に広がったマンモスが、すべて狩り尽くされたと考えるのは難しい。一部の地域では、人類による狩猟の結果、絶滅した 事はあったかもしれない。しかし、シベリアはあまりにも広すぎる上に人類の生存には過酷すぎる。現在でも人跡未踏の地はいくらでも有るのだ。

さて、マンモスの絶滅原因として、もうひとつ有力な仮説がある。それは気 候変動説で有る。つまり、氷河期の終焉自体が、マンモスの絶滅を招いたとする説だ。

ところで氷河期と言う名称は一般的に良く使われるが、地球科学上では、一般的な氷河期に 相当する言葉として氷期と言う名称を使うので、ここでも以後氷期と言う名称を使用する。ちなみに、地球科学でも、氷河時代と言う言葉も使用するが、これは 氷河の存在する時代と言うことで、その意味で現在は、氷河時代の間氷期に相当する。

一般的に、最終氷期は約1万2000年前に終了したとされている。しかし、約2万年前に最寒冷期を向かえた最終氷期は、約1万5000年前から温暖化に移行し、最終的にヤンガードライアス期と言う象徴的なイベントで終了している。

ヤンガードライアス期は、12900年前から11700前まで続いた一時的で極端な寒冷期で、こ の時代の気温は、数十年単位で5度以上も変化した事が知られている。元々、氷期の気候に適応したマンモスは、ヤンガード ライアス期を生き抜いたが、ヤンガードライアス期の終焉に伴う、急激な温暖化に適応できなかったと言う。

急激な温暖化の最大の影響は、降雪量の増加であり、マンモスの食料である草本が不足した事に有るとされる。しかし、当然のことながら食料が不足すれば個 体数を減らせばよいだけで、絶滅してしまう事は考えられないとする反論もある。

更に、気候変動説の矛盾を決定付ける重要な証拠が最近発見された。北極海のウランゲル島で、約4000年前と推定されるマンモスの骨が出土したのだ。しかも、そのマンモスは体型が小型化していた。つまり、ウランゲル島では積雪増加の為に減ってしまった食 料資源に対応し、体を小型化させ食料摂取量を減らすと言う適応戦略でマンモスは生き延びてきた事になる。

ウランゲル島で、絶滅することなく適応が可能だったならば、広大なシベリ地域のほかの場所でも、同じように適応できるはずである。結局、この発見により マンモスの絶滅を気候変動だけで説明する事は難しくなった。実際、現在では気候変動が絶滅の一因と認めつつも、原因はそれだけでは無いと考える研究者が多 い。気候変動と人類による過剰な狩猟が複合して、絶滅に至ったとするシナリオも考えられている。

ところが2006年の愛知万博以来、突然、ある意外な絶滅 シナリオが注目を浴びるようになった。愛知万博の目玉の一つは、非常に保存状態のよい冷凍マンモスの頭部であった。だが、この展示を記念する「マンモス絶 滅に関しての国際シンポジウム」が行われていた事はあまり知られていないだろう。

この国際シンポジウムで、マンモスの絶滅は未知の病原菌による物だとする仮説が出された のだ。未知の病原体による絶滅説を、強く主張しているのはアメリカ自然史博物館のロス・マクフィーである。マクフィーは、同僚の分子生物学者 アレックス・グリーンウッドと共に、凍結マンモスの組織と骨髄から、ウイルス性の物質の取出しにも成功し ている。

現在まで、このウイルスの正体は明らかにされていないが、彼等は、狂犬病やジステンパー のような、種を越えて感染可能なウイルスの一種だと考えている。そして、氷期の終わりごろに人がアメリカ大陸に移動した事により、犬や害獣により運ばれた 病原体が広い範囲にばら撒かれ、マンモスが絶滅したとする。

人類による狩猟説の反論として、「人跡未踏の広大なシベリアの全域に生息していたマンモ スが狩り尽くされるのはおかしい」とする主張がある事は、先ほども説明したとおりである。しかし、病原体で有れば、徐々に個体間を感染して広がって行くこ とにより、広大なシベリアの人跡未踏の地にまで拡大する事は可能なのだ。

マクフィー達により検出された病原体については、発掘過程や保管過程で汚染された可能性 も有るとの反論も出されている事は確かである。しかし、実際にアメリカ大陸のコロンビア・マンモスでは、病原体に犯されたと考えられる大腿骨の変形が、非 常に多くの個体から見つかっている。それに比べ、人の手により石器で傷つけられた跡の発見は極僅かにしか過ぎない。

考えてみれば、現在の狩猟採集民で象を主に狩猟の対象としている人々はいない。象が生息 できるような豊かな環境には、その他の小型の草食動物も数多く生息するのだ。巨大で獰猛な象を狩猟の対象とするよりも、小形動物を狙った方が遥かに安全な のだ。過去においても、マンモスを狩りつくすほどの狩猟が行われていたとは考えにくい。

よく人類が大量にマンモスを狩っていた証拠として、マンモスの骨と牙で出来た先史時代の 家の例が取り上げられるが、これらのマンモスの骨や牙も狩の獲物の物だとは限らない。現在と同じように、マンモスの墓場から大量に出る骨と牙を利用しただ けかもしれない。実際、その痕跡も指摘されている。

未知の病原体によるマンモスの絶滅説は、まだ一般には知名度が低いが、これらの矛盾を解 決できる新説として注目を集めているのだ。更に、「未知の病原体」説では、冒頭に述べた謎も解決可能である。シベリアにはマンモスの墓場と言われるマンモ スが大量に出土する場所が有るが、マンモスばかりが大量に出土するのは、マンモスだけが病原体に犯されて同時期に大量に死んだからに他ならない。

ここで冷凍マンモスになる条件を考えてみよう。第一に挙げられる事は、死後他の動物に食べられないと言う ことである。次の条件は肉が腐らないと言うことである。つまり、肉が食べられる事もなく、腐る前に、冷凍状態になる必要が有る。

もし、マンモスが病原体に侵されて同時期に大量に死んでいれば、あれだけの巨体である!  捕食動物もきっと、食べ尽くしきれなかったに違いない。更に、冷凍マンモスは腐る前に冷凍化される必要があるのだから、大量に残された死体のうち偶然に そのような状態に置かれた物が、今日、冷凍マンモスとして発見されるのだろう。マンモスの完全な冷凍死体が発見される事自体が、突然の大量死を物語ってい るのだ。

勿論、気候の変動や人類による狩猟圧がマンモスの絶滅に全く影響しなかったとまではいえ ないだろう。しかし、これらだけでは、決して絶滅の理由とはならない。一部の者は、マンモスの突然大量死の理由を説明するため、地球自転軸の急激な変化、 いわゆる「ポールシフト」があったと主張している。しかし、現在まで地質学的にそのような出来事が起こった事実は確認されていない。少なくともマンモスの 絶滅には、「未知の病原体」が大きく関わっていると見るべきである。

しかし、マンモスの絶滅理由が、「未知の病原体」による伝染病の蔓延だったとすると、現 在の我々にとっても、ただ事では済まされない問題である。マンモス同様に繁栄の頂点を極めている人類に忍び寄る病原体の驚異……そう! 鳥インフルエンザ である。

鳥インフルエンザは、日本国内でも繰り返し発生し大きな問題となっている 事は、周知の事実だろう。このうち家禽類に大きな被害をもたらしている鳥インフルエンザは、高病原性鳥インフルエンザと呼ばれている。通常であれば、ヒト には鳥インフルエンザウイルスに対する受容体が無い為、感染はしない。しかし、H5N1亜型と呼ばれる型の鳥インフルエンザは、現在、世界各国でヒトへの感染が報告されてい る。

最近の研究では、どうやらヒトの肺胞上皮細胞にはH5N1亜型に対応する受容体があり、この型の鳥インフルエンザウイルスに大量に暴露された場合 に感染を起こしていると言う。WHO発表の感染確定症例数によると2008619日時点で、確定症例数は東アジアを中心に全世界で385例に上っていると言う。更に、その内の死亡者数は243例である。なんと感染すると63%が、死に至る恐怖の病気なのだ。

鳥インフルエンザウイルスに対する受容体は、肺の深部に有るため、直接家禽類とふれあい 大量にウイルスに暴露されない限り感染する事はなく、ヒトからヒトへの感染は起こさないとされている。ところが、現在東アジアを中心に流行しているH5N1亜型で、家禽からの感染が確認されず、ヒトからヒトに感染したと思われる例が、少ないな がらも報告されている。

幸い現在のところ、ヒトからヒトへの大量感染は起こっていない。しかし、これからも起こ らないと、言えない所に本当の恐怖は待っている。ある程度年配の方は、現在でもスペイン風邪の恐怖を覚えている事だろう。あの恐怖! いやそれ以上の恐怖 が近い内に確実にやってくるのだ。

遅かれ早かれ、鳥インフルエンザウイルスは新型のヒトインフルエンザウイルスに変異す る。現在、インフルエンザの季節流行を引き起こすH1N1亜型とH3N2亜型ウイルスは、それぞれにスペイン風邪を引き起こしたインフルエンザと1968年〜69年にかけて流行した香港インフルエンザに 起源を持つ。だが、これらのヒトインフルエンザも元をただせば、鳥のインフルエンザから変異した物なのだ。

鳥インフルエンザが、ヒトのインフルエンザへ変異を起こす過程は、2種類があるとされる。スペイン風邪のインフルエンザは、遺伝子の突然変異が原因でヒトイ ンフルエンザに変異した事が知られている。一方、香港インフルエンザでは、鳥インフルエンザのウイルスが、ヒトのインフルエンザウイルスとの間で遺伝子の 組み換えを起こし、新しいヒトインフルエンザに変異したと考えられている。

現在H5N1亜型の鳥インフルエンザは、すでにヒトに感染しているので、ヒトインフルエンザとの間で遺伝子の組み換えが起こり、ヒトに感染するインフルエンザウイル スへと変異する可能性は非常に高いといえるだろう。……と言うより、もはや時間の問題である。

では、新型インフルエンザのパンデミック(汎世界的大流行)が起こるとどうなるのだろう か? 人類は、マンモスより高度な知能を供えているので、絶滅は免れると思いたい。しかし、世界的な大パニックが起こる事は避けがたい。

新型肺炎サーズの騒動を思い出してほしい。僅か全世界で1万人にも満たない発症者しか出さなかったにもかかわらず世界的パニックを引き起こした。 正確な集計は出ていないようだが、旅行産業を中心に経済的損失も莫大だった。

一方、スペイン風邪は当時の世界人口のおよそ1/3に当たる約5億人もの感染者を出したのだ。今回も、新型ウイルスによるパンデミックが起こった場合、世界人口の1/3が感染を起こすと覚悟する必要があるだろう。世界人口の1/3が、インフルエンザに感染した世界を想像できるだろうか? 人類の経済活動が完全に停止する事は間違いない。

マンモスが絶滅した一万年前、人類の行く手を阻んでいた氷河は溶け出し、人々は徒歩で世 界規模の移動を開始した。スペイン風邪が始まった1918年当時、人々が船で移動する事により、瞬く間にウイルスは世界に広がった。次のパンデ ミックが起こるのは、航空機の時代である。人々が、新型インフルエンザが出現したと気付いたときには、すでに世界規模で広がっている可能性も否定できな い。そうなると、ワクチンの製造などまったく追いつかない。

現在、ヒトに感染した鳥インフルエンザウイルスを元に新型インフルエンザウイルスに対す るワクチンの開発が行われている。だが、このワクチンにしても、本当に効くかどうかは、新型インフルエンザウイルスが出現しない事には確認できないのだ。 本当の意味での新型インフルエンザに対するワクチンの開発は、新型インフルエンザが出現しない限り出来ない。つまり、極論を言えば、事が起こるまで打つ手 は無いのである。

この事実を考える限り、人類の絶滅とまでは行かないまでも、文明を一から築きなおさなけ ればならない事態も起こりかねない。もし、運悪くそのような事態に陥った場合、世界で消費されていた化石燃料から出る二酸化炭素もなくなり、いきなり温暖 化がストップするだろう。

今まで人類の排出する二酸化炭素による温暖化を、「負のフィードバック」で押さえてきた 地球は、急激な変化に対応できず一気に氷期に突入する可能性も考えられる……。一万年後に、再び高度な文明を取り戻した人類が発見するのは、今度はマンモ スでは無く、古代人の冷凍死体かもしれない。


 2008年10月26日 権藤正勝



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