進化を続けた恐竜6: 賢い恐竜(ディノ・サピエンス)

 

 新生代に入り750万年が経過した頃、北アメリカの恐竜たちの中に磨製石器を作るスマートな恐竜の一団があらわれた。彼等の脳は、もはや人間以上の多きさが有り、体つきは 華奢になっていた。

一見そのプローポーションは、人間にそっくりである。しかし、人間とは大きく異なる身体的特徴があった。恐竜には、くびれた腰が無いのだ。人間に腰があ るのは、腹部に肋骨の無い背骨だけの部分が大きくあるためで、この事により体の柔軟性を保っている。この身体的特徴は、人間だけに見られるものではな く哺乳類全般に見られる特徴だ。恐竜や鳥類には、このような特徴はない。

 恐竜の脳が人間以上に発達したのには、訳がある。人間は、子供で生まれてくる為、これ以上「頭でっか ち」になると、産道を通り抜けられなくなってしまう。 

 一方、卵で繁殖する恐竜には、この様な制限が無いのだ。知能の発達に合わせて、次第に大きな脳を獲得し ていくことが可能だった。こうして、北アメリカに最初の解剖学的現代恐竜:ディノ・サピエンスが出現した。

 ディノ・サピエンスの血筋は、その後10万年以上の歳月をかけ、ディノ・エレクトスとの交配を行いながら世界の隅々にまで拡散していった。10万年後には、地上からディノ・エレクトスの一群はすでに姿を消していた。この頃になると、ディノ・サピエンスは南半球にも進出していた。そこで彼等は、 自分達と祖先を共通にする、もう一種の恐竜アウストラロ・サウルスと出会う事になる。

 アウストラロ・サウルス達も高度な社会生活を送る知能の高い動物に進化していた。しかし、いまだ単純な 自然の道具を使用するレベルにとどまっており、精密な道具を製作する技術や複雑な言葉を話す能力を持つにはいたっていなかった。もちろん、アウストラ ロ・サウルスとディノ・サピエンスは、すでに交配が不可能なまでに遺伝的距離があった。

 ところで地上の支配者が恐竜である事を除けば、陸上の動物の大半は、この頃には哺乳類が占めていた。爬 虫類は、すでに繁栄の片隅へと追いやられていたのだ。そして、恐竜達自身も自分達が爬虫類の仲間だとはまったく考えていなかった。

 最初のディノ・サピエンスが出現して15万年が経過したとき、中央アジアで家畜の放牧が始まった。時を同じくして、東アジアでは土器が発明された。最初の土器作りは、溶岩に触れ硬く変質した粘 土からヒントを得た一匹の天才恐竜によって考案された。土器作りの技術は、またたく間に世界に広がり、ディノ・サピエンス達の食卓事情を一変させた。

 そして、土器により水が保存できるようになった為に長い航海が可能となり、大航海時代が訪れることにな る。もはや、地球上の大陸でディノ・サピエンスの住んでいない場所は無い。遂に、大絶滅を生き延びた恐竜は、再び地上の覇者となったのだ。

 やがて、世界各地で同時多発的に都市文明が起こり始めた。巨大な神殿を中心とした都市国家が誕生し、富 と権力を独占するものが出現した。恐竜の信仰の中心は、今でも火である。恐竜の有力者達は、何れもディノ・エレクトスの時代から続く火の管理者の一族 である。都市国家は、やがて巨大国家へと成長し、恐竜の文明社会が形作られていった。

 恐竜社会に産業革命が訪れ高度成長を始めたころ、アメリカの田舎町で地元の化石収集家が、大きな歯の化 石を発見した。収集家は、この歯が自分の歯にそっくりである事実に気づき衝撃を受けた。何しろ自分の歯が1センチしかないのに対し、この歯は30センチもあるのだ。

 やがて、歯の発見された周辺から、ついにこの歯の持ち主の全身骨格が発見された。しかし、このことは更 なる衝撃を恐竜社会に与えた。なぜなら発見されたティラノサウルスの骨格は、多くの点で自分達:ディノ・サピエンスと共通点が見られたからだ。こうし てディノ・サピエンスは自分達の祖先が信じられないほど巨大だった事実を知ることになった。

 その後恐竜の化石は、世界各地で発見されディノ・サピエンスの祖先たちは中生代の時代、多種多様に進化 を遂げ大繁栄していた事がわかった。次にディノ・サピエンスたちが捜し求めたのは、中生代末の大絶滅を生き残り自分達に進化した恐竜だった。

やがて、程なくその恐竜も発見された。中生代末の地層からトロオドンの化石が発見されたのだ。他の恐竜に比べ脳が大きい事とアウストラロ・サウルスとの 類似点から自分達の祖先に間違いないことが確認された。そして恐竜の学者達は、中生代末期の大絶滅を生き延びた恐竜はトロオドン一種であった事実を突 き止め、更に驚愕した。

「もし恐竜が完全に絶滅していたら、この世界はどうなっていただろうか?」「哺乳類が進化を続け自分達の地位に納まっていたのではと?」と思いを馳せる のだった。

 

20021124日 権藤正勝


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