進化を続けた恐竜5:
直立恐竜(ディノ・エレクトス)
更に200万年が過ぎ去り、新生代に入り700万年が経過していた。今では、中生代末の大絶滅の痕跡さえ残っていない。世界中に、動植物があふれている。小さな生物の代表だった哺乳類も今では恐竜並
に大型化した種も現れていた。
北半球に生息していたディノ・ハビリスは更に進化を続け、新しい段階ディノ・エレクトスの段階に進んでいた。ディノ・エレクトス達の外観からは、すでにトロオドンの
面影は無くなりつつあった。獲物を求めて、常に走り回る生活と決別したディノ・エレクトス達の尻尾は短くなり、もはや体のバランスを取る事には役立た
なくなっている。直立恐竜・ディノ・エレクトス足るゆえんである。尻尾の有った所には、綺麗な飾り羽が生え、コミュニケーションの一手段として役立っ
ている。
一方、南半球のアウストラロ・サウルスは、ほとんど変化を遂げていなかった。この200万年間に身につけた技術と言えば、石を投げつける事と棍棒で殴りかかる事ぐらいである。
もともと、最強の武器である大きなカギ爪を備えていたアウストラロ・サウルスとって、サバンナに余りあ る獲物を捕まえる事は、容易な事で何一つ工夫を凝らす必要が無かったのだ。
ところが北半球のディノ・エレクトスは、交易の概念を発見して以来、飛躍的な進歩を遂げていた。集落間 で、物々交換を行うことにより、新しい発見や発明を共有出来るようになり、お互いに進化が加速していった。
ディノ・エレクトスは衣服を発明していた。衣服と言っても、人間の考える衣服とは異なり、雨露を避ける為の一種のマントのようなものである。彼等は、 鳥の羽を細い糸で器用に編みこみ見事なマントを作っていた。
物々交換による交易が拡大すると共に、複雑な意思疎通の必要性も増してきた。ディノ・ハビリスの時代か
ら、ある程度の言語能力を持ち、コミュニケーションを行ってきた恐竜達だが、この時代になると完全な文法を備えた言葉を話すようになっていた。また、
同じ北半球でもアジア側とアメリカ側では、次第に文化の違いが明確になってきていた。
そして、ディノ・エレクトスをディノ・エレクトス足らしめる最大の発見が、火の使用だ。ある夏の日の夕方、東の果てにあるディノ・エレクトスの集落の近
くに雷が落ち、山火事が発生した。山火事は、ディノ・エレクトスにとって最も恐ろしいものの一つであるが、めったに無いチャンスのときでもあった。
ディノ・エレクトスたちは、火でこんがりと焼けた虫や動物を食べるのが大好きなのだ。特によく焼けた魚は美味しい。
最初のころ、ディノ・エレクトス達は山火事の後に残された「焼けた動物」を採集するのみであった。しかし現在では、火を積極的に利用する技術を身につけ ていた。
ディノ・エレクトス達は、一斉に枯れ枝を集め、火を採集しに出かけた。 枯れ枝に火を移して急ぎ足に引 きずってきては、広場の中央に積み上げた。そして、その火の中にありったけの食料を投げ込んだ。
幸い、山火事は村とは反対の方向に引いていった。こうしてディノ・エレクトス達の大晩餐会が始まった。
大晩餐会のその間、若いディノ・エレクトス達は枯れ枝を補充し火が下出にならない様に気を配った。その時ひらめいたのだ、「いつも誰かが交代で火の番
をすれば、いつも美味しい焼き魚が食べられるかもしれない」と
アイデアは、良かったのだが、彼等が火を実際に管理して使いこなせるようになる為には、更に数百年がかかった。燃え盛る炎を保つには、あまりにも多くの
燃料を補給しなくてはいけなかったからだ。しかし、炭に種火を残して保管する技術の発見によりこの問題は解決し、火を自在に使いこなせるようになっ
た。しかし、種火を保管する技術を発見した反面、ディノ・エレクトスたちは、火を自分で起こす方法の発見には至らなかった。
こうして、ディノ・エレクトスの村々の中心には、常に種火が置かれる事となった。火の重要性が増すと共に、火は神聖視され、やがて信仰の対象となって
いった。そして、火を守るディノ・エレクトスの家系は、次第に権力をもつ特権階級となっていった。
---進化を続けた恐竜6:賢い恐竜(ディノ・サピエンス)へ続く---