進化を続けた恐竜2:サバイバル

 

 

あの事件から、5年 の歳月が流れた。最初の頃、焼け付くような暑さに包まれていた地上だが、今では一面が雪と氷に覆われた極寒の世界となっていた。幸いにも、トロオドン たちが暮らしていた谷は、火山活動の地熱のおかげで、雪に覆われる事もなかった。トロオドンは、かつては季節毎に移動を繰り返してきた。彼らの餌であ る草食恐竜が季節と共に大移動を行っていたからだ。

しかし、今ではこの谷を離れる事は出来なくなっていた。谷の周辺は、一面雪に閉ざされた 極寒の地と化していた。又、谷には周辺から暖かい土地を目指して動物達が集まってくるため、食料も何とか確保できていた。

ところが、最近めっきり集まってくる動物が少なくなってきたのだ。おそらく周辺の動物達 は、もうほとんど死滅してしまったのだろう。

トロオドン達は、飢えていた。本来リーダーの統治のもと、集団で狩を行うトロオドンは、 めったに諍いを起こす事は無かった。しかし、このところ群れ内での諍いが頻繁に起こるようになってきた。もちろん、そのほとんどの原因は、食料の奪い 合いである。

ある日、一匹のトロオドンが、谷ぞいに歩きながら獲物を探していた。この日も獲物は見つ からず、とうとう海岸線まできてしまった。海岸線は、前回きたときよりも随分と後退していた。巨大な隕石の衝突が巻き上げた塵のため、急激な気候の寒 冷化が起こり、大量の水が氷河に閉じ込められつつあったからだ。もちろん、トロオドンにとっては、そんな理由がわかるすべも無い。

この付近は、特に地熱が高いので、海面からもうもうと湯気が立ち上がっている。トロオド ンは、海に足を踏み入れた。

この付近が、地熱で暖かいとはいえ、夜になれば氷点下近くまで冷え込む。冷えきった体 で、暖かい海水につかると気持ち良いのだ。ふと、足元を覗いてみると、海中には今まで見た事も無い様々な生物がうごめいていた。

トロオドンは思い出した。随分前に海岸線にきた時、浜辺に打ち上げられ死んだ生物をつつ いて食べてみた事があったのだ。異常に鼻を突く生臭いにおいを記憶しているが、食べられないほどの物でもなかったような気がする。トロオドンの脳裏に アイデアが浮かんだ。こいつら、食べられるかもしれない!

そう思った瞬間、トロオドンは無我夢中で魚を追いかけていた。首尾よく魚の一匹を踏み潰 したトロオドンは、早速食べてみる事にした。初めて食べる味だ。やはり鼻を突く生臭い匂いがし、お世辞にも美味しいとはいえないが、背に腹は変えられ ない。こうして、トロオドンの食卓に新しい食材が加わった。

魚を食べる事により、食糧問題は何とか解決したが、トロオドンにとってもう一つ大問題が 残っていた。それは、夜の寒さである。トロオドン達は、夜の寒さに耐える為、いつも集団で集まり折り重なるようにして夜をすごしていた。集団の中心に は、いつも群れのリーダーが陣取り、若い恐竜たちは集団の端で寒さに震えていた。

トロオドンのこの行動は、捕食活動の制限にもなっていた。なぜなら、夜には必ず集団にま で戻ってこないと凍え死んでしまうからだ。 

今日も、その若いオスのトロオドンは、夜の寒さに震えていた。体の半分は、夜の冷たい風 にさらされて、今にも凍えそうだ。何故、夜の風はこんなに寒いのだろう?

この風さえなければ、随分と暖かいのだが。そう考えた若いトロオドンは、風をさえぎるも のを、持ってくれば暖かくなるのではと考えた。翌日、早速若いトロオドンは、風除けになりそうなものを探して回った。谷の奥深くにわけいると大きな羊 歯植物が生い茂っている一角があった。大きく広がった羊歯の葉を見たトロオドンは、これだと直感した。そして、大きな羊歯の葉っぱを5枚 ほど、引きちぎり集めてきた。この日は、運良く羊歯の葉っぱの裏側に隠れていたトカゲまで見つける事が出来た。久々の魚以外の食事である。

若いトロオドンは、その日の晩、早速羊歯の葉を使ってみる事にした。前脚と口を使い器用 に、体の露出している部分が羊歯の葉っぱで覆われるようにしたのだ。効果は絶大だった。風が遮られたばかりでなく、中からポカポカと暖まって来て実に 気持ち良い。

翌日も、その翌日も同じ事を繰り返した。周りのトロオドン達は、この若いオスの行動を好 奇の目で見つめていた。他のトロオドンにとっては、風を遮ると言うアイデア自体が理解できないのだ。しかし、その効果を理解するのは、たやすかった。 こうして、トロオドンの集団の外周は、毎晩羊歯の葉で覆われる事となった。

 

------進化を続けた恐竜3: 春の到来へ続く---

 


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