進化を続けた恐竜3: 春の到来

 

 

更に、100年 の月日が流れた。長かった「核の冬」の時代は終わりを告げ、温暖な気候が戻ってきていた。長い冬の時代、定住を余儀なくされたトロオドン達が渡りを行 う習慣はもうなくなっていた。極寒の時代を生きのびたトロオドンにとって、もう夜の寒さは問題ではなかった。

この頃になると、トロオドン達は、屋根付きの巣穴を作るようになっていた。元々、地面に 鳥のような巣を作る習慣のあったトロオドンは、その巣の底を深く掘り下げ羊歯の葉の屋根をのせたのだ。

気温があがった為、もう集団で夜をすごす必要も無かった。それに屋根付きの巣穴のおかげ で、多少寒さの厳しい真冬の夜でも、凍え死ぬような事はなくなっていた。長い冬の時代は終わったにもかかわらず、逆に季節の移り変わりが次第に明確に なり、今では暑い夏と、寒い冬が交互に訪れるようになっていた。中生代にも、気温の高い季節と低い季節はあったが、今ほど明確ではなかった。

この頃になると、周りの景色も一変していた。暖かくなった大地には、被子植物が急激に増 えてきて、色とりどりの花を咲かせるようになっていた。被子植物は、白亜紀後期には普通に見られる植物になっていたが、一面花が咲き乱れるような光景 は無かった。しかし、今では、どこを見渡しても被子植物だらけで、一面の花畑や花が咲き乱れる木々がいたるところに生い茂っている。

又、隕石の衝突直後は、まったく姿を消していた鳥達も再び姿をあらわしていた。鳥は、恐 竜から進化した生物で、トロオドンとは親戚関係にあたる。しかし、すでに鳥達は恐竜とは、かなり違う姿に進化していた。今では、トロオドン達が鳥に出 くわしても、喧しくて絶対に捕まらない忌々しい生物としか思わなかった。

そして、恐竜の谷では哺乳類が大繁殖を始めていた。何しろ、哺乳類にとっての天敵は、今 ではトロオドン一種のみになっていたのだ。もちろんトロオドン以外にも、肉食のトカゲやワニも存在したが、哺乳類の天敵となりうるほどには、数は多く なかった。おまけに哺乳類の主食であった昆虫が爆発的に増えていた事も、哺乳類の爆発的な繁殖を支えていた。

この時期、生態系は大混乱を迎えていた。天敵を失った動物種がいたるところで、大繁殖を 始めていたのである。特定の動物が増える一方、その影で新たな絶滅の危機に遭遇する動物も出てきた。恐竜達も増えすぎた哺乳類に卵を狙われ、一時期絶 滅の危機にさらされた事があった。それまで、恐竜の姿を見かけると巣穴に飛び込んでいた哺乳類が、恐竜の隙をついて集団で卵を襲うようになったのだ。

しかし、哺乳類の巣穴からヒントを得た屋根付きの巣穴のおかげで、卵を奪われる事がなく なり何とか危機を乗り切る事が出来た。

今では、逆にトロオドンは増え続けていた。食料が豊富になったこの時期でも、魚食の習慣は続き、トロオドンは海岸沿いに生息域を拡大していった。

しかし、このように生物が活気を取り戻したのは、この付近では恐竜の谷周辺に限られていた。世界中の多くの地域では、未だに生物の影さえ見えない状態が 続いていた。中生代末、大激突した隕石の影響は、想像を絶する物だったのだ。

 

---進 化を続けた恐竜4:道具を使う恐竜へ続く---


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