進化を続けた恐竜4: 道具を使う恐竜

 

 

 新生代に入り、500万年がすぎた。恐竜の谷の大半は海に水没し、地上には、あらゆる種類の哺乳類が進化し、あふれていた。まさに時代は、哺乳類の時代になっていた。

 しかし、哺乳類の時代が訪れたとはいえ、地上の食物連鎖の頂点に立っていたのは依然恐竜だった。共にトロオドンを 祖先とする恐竜たちは、今では2種類の種族に分かれていた。新生代に入りまもなく、温室効果による温暖期が一段落ついたとき、短い寒冷期 が訪れた。この時期、分裂を続けていた大陸の間が、わずかな期間だけ細い陸橋で結ばれていた。

このわずかな期間に、南半球に恐竜の一派が暖を求めて移り住んでいた。短い寒冷期以降、二度とつながることの無かった南北両大陸で恐竜は独自の進化を遂 げはじめていたのである。南半球に移り住んだ恐竜の子孫は、魚を食べる事を止め哺乳類を狩るアウストラロ・サウルスとなっていた。一方そのまま北半球 にとどまった恐竜は、魚や小動物、果物等の雑食性を備えたディノ・ハビリスとして進化していた。 

 恐竜は、この時代最も頭の良い動物だった。アウストラロ・サウルスは、体長約2m、多少尻尾が短くなり、色がカラフルになった以外は、祖先のトロオドンに そっくりである。 しかし、その頭脳はトロオドンと は比べ物にならないほど大きくなっていた。 

 アウストラロ・サウルスは、南半球の広大なサバンナに転々とキャンプ地を作っていた。

 それぞれのキャンプ地には、木の枝と枯葉で作られた立派な小屋が立ててあり、獲物を求めて次々とキャン プ地を移り歩いていた。彼等の狩りは、常に集団で行い、獲物を一度に多くしとめたときは、干し肉にして保存する知恵さえ身につけていた。すでに恐竜た ちは、綺麗なものに対して特別の感情を抱くようになっていて、それぞれの小屋は、色とりどりの鳥の羽で飾り付けがしてあった。

 一方、北半球の温帯地方にすんでいたディノ・ハビリスは、恐竜の谷のトロオドンと 直接的につながる種族で、いまだに魚を食べる習慣を持っていた。そしてディノ・ハビリスは、アウストラロ・サウルスよりも更に高度な知能を発達させて いた。

 もともと大型の動物が少なかったこの付近では、様々な小動物をたくさん捕まえる必要があった。それぞれ の、獲物にあわせ狩の仕方に工夫を凝らしているうちに、知能が高度に発達してきたのだ。更に、魚を捕らえ食べていた事もディノ・ハビリスの知能の発達 に一役買っていた。魚には、大脳の発達に不可欠の物質DHAが多く含まれていて、このDHAの大量摂取が大脳の発達を更に促していた。

 ディノ・ハビリスは、すでに村と呼べるほどの定住地をもっていて、彼等の小屋はアウストラロ・サウルスの物よりも更に頑丈で立派に出来ていた。それぞ れの、小屋の屋根には樹脂で貼り付けた鳥の羽が、何層にも貼り付けられ、雨露をしのいでいる。ディノ・ハビリスはすでに石器を道具として使用してい た。このため、彼等の前脚の爪は小さくなり、すでに武器としての役目は失われている。

 ディノ・ハビリスの集落は、かつての恐竜の谷を中心とする広い範囲に分布していた。

 しかし、ディノ・ハビリスにまだ交易を行うと言う概念は無く、それぞれの集落は常に敵対関係にあった。 集落同士の諍いも絶えなかったが、武器を用いて殺しあうほど獰猛な種族ではなかった。

 

---進 化を続けた恐竜5:直立恐竜(ディノ・エレクトス)へ続く---

 


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